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札幌高等裁判所 昭和32年(ネ)230号 判決 1958年12月20日

控訴人(被告) 北海道知事

被控訴人(原告) 玉木薫

原審 札幌地方昭和二四年(行)第二〇号(例集二巻一号4参照)

主文

本件控訴を棄却する。

差戻前及び差戻後の控訴費用ならびに上告費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

被控訴代理人は請求原因として、

「被控訴人は別紙目録記載の土地(本件土地という。)を含む農地一町三反歩を所有していたところ、北海道札幌郡琴似町農地委員会は昭和二十三年六月中に本件土地が訴外真砂尊雄の小作地ないし仮装自作地であるとして自作農創設特別措置法に基き買収計画を立てたので、被控訴人は同農地委員会に異議を申し立てたが却下され、更に北海道農地委員会に訴願を提起したが、同委員会は昭和二十四年四月八日右訴願を棄却する旨の裁決をなした。

しかし、本件土地は被控訴人が父憲政から昭和十九年に贈与を受け、その耕作を計画して同年その附近に住宅を新築し、昭和二十年度及び昭和二十一年度は自ら耕作したのであるが、昭和二十二年度は人手の不足を補うために真砂尊雄に給料として毎月五百円を支給し、年度末に本件土地の耕作から得た利益の十分の六を与え、かつ、前記住宅を無償で使用させるとの約束で同人を雇い入れ、本件土地の耕作に従事させたのであつて、被控訴人所有の農具を使用させ、耕作物の種類作付面積は被控訴人が定め、種苗及び肥料は被控訴人が自分で購入し、収穫物は被控訴人が処分し、かつ、農繁期には被控訴人、その家族、使用人等もともに耕作に当つたのであつて、右農業の経営はすべて被控訴人がなしていたのである。そして、被控訴人は右真砂を昭和二十三年五月中旬解雇し、以来同人は本件土地の耕作には全く関与していない。

以上のような次第で、真砂尊雄は被控訴人の使用人として本件土地の耕作にたずさわつたのにすぎないから、右を小作関係又は仮装自作関係があるとして立てられた前記買収計画は違法である。従つて、同買収計画を認容して訴願を棄却した前記裁決も失当である。よつて右裁決及び買収計画の取消を求める。」と述べ、

控訴代理人は答弁として、

「本件土地が主張の如き経緯で被控訴人の所有となつたこと、同土地について主張の日時に買収計画が立てられ、被控訴人が適法に異議をなしたが、却下され、更に訴願をなしたが棄却されたことは認め、その余の事実は否認する。

本件土地は自作農創設特別措置法第三条第五項第二号により仮装自作地として買収したものである。農具、種子、肥料は被控訴人のみが出資して購入したものではなく、真砂尊雄は報酬を受けておらず、収穫物の純益金のうち十分の六を同人、十分の四を被控訴人が収得する約束になつており、また、本件土地の耕作に被控訴人自身が従事したことはなく、被控訴人が提供した労力はいずれも女子であつて、収穫期において形式的に一時間ないし四、五時間の手伝をしてその都度収穫物を持ち帰つており、これは食糧持運びの手段としてなされたに過ぎない。」

と述べた。(証拠省略)

理由

本件土地が昭和十九年に被控訴人の所有となつたこと、琴似町農地委員会が同土地について昭和二十三年六月買収計画を立てたこと、被控訴人がこれに対し異議を申し立てたが却下されたこと、更に北海道農地委員会に対し訴願をなしたが、昭和二十四年四月八日訴願棄却の裁決を受けたことは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第十四号証及び乙第二号証の一、二によれば、本件土地は真砂尊雄が請負によつて耕作しているものとして自作農創設特別措置法第三条第五項第二号によつて買収計画が立てられたことが認められる。

本件土地が右法条に該当するか否かについて案ずるに、成立に争いのない甲第二号証の一、二、第五ないし第七号証、第十一号証の一、二、第十二号証、原審証人尾崎新吾の証言により成立の認められる同第四号証の一ないし三、第十三号証の一、二、原審における被控訴本人尋問の結果により成立の認められる同第八ないし第十号証、原審証人吉田祐得、尾崎新吾、菅原幸蔵、中宮襄一、石井佶、当審証人原田真砂男(差戻前及び差戻後の分を含む。)中宮襄一、吉田祐得の各証言、原審及び当審における被控訴本人尋問の結果によれば、被控訴人は肩書住所で茶の販売業を営んでいたが、本件土地を昭和十九年収得して自家及び使用人のための食糧を補給する目的で附近に住宅を建て、昭和二十年度及び昭和二十一年度は自己及びその使用人で耕作に当つたこと、昭和二十二年度は人手の不足を補うために真砂尊雄を雇い入れ、右住宅を無償で使用させ、毎月金五百円を支給し、年度末に本件土地の耕作によつて生じた利益の十分の六を与えるとの約束をして、本件土地の耕作に当らせたこと、真砂尊雄はそれまで余り農業の経験はなかつたこと、耕作物の種類、作付面積は被控訴人が定め、農具はすべて被控訴人所有のものを同人に使用させ、種苗肥料は被控訴人が買い入れて同人に渡し、収穫物は被控訴人がその処分をなしたこと、農繁期には被控訴人、その家族及び使用人も耕作に従事したこと、昭和二十三年には給料を毎月金千二百円に改めたほか従前どおりであつたことが認められ、右認定に反する原審及び当審証人今井慶三、真砂尊雄(差戻前及び差戻後の分を含む。)の各供述部分は措信しない。右事実によれば、真砂尊雄は被控訴人の使用人として雇われて本件土地の耕作の仕事を担当させられたもので、本件土地は被控訴人が自家及び使用人の食糧を補給する目的で耕作し、真砂尊雄は被控訴人の行う右耕作を補助するため労務を提供したものといわなければならない。従つて、本件土地は前記法条には該当しない。

しからば、本件土地が前記法条に掲げる土地に当るものとして立てられた前記買収計画には重大な瑕疵があるのでその取消を免れず、また、同買収計画を支持した前記裁決は不当である。従つて、右買収計画及び裁決の収消を求める被控訴人の本訴請求は理由があるから、これを認容した原判決は相当である。

よつて、民事訴訟法第三百八十四条、第九十六条、第八十九条に従い主文のとおり判決する。

(裁判官 石谷三郎 渡辺一雄 岡成人)

(別紙目録省略)

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